ピックアップの雑談:Fender Texas Special VS. Tex Mex
フェンダー社のリプレイスメント・ピックアップ製品群において、実に30年以上のロングセラーを誇るこの 2種類について、語ってみたいと思います。実はこの両者、“Tex(Texas)”という語彙を含んでいることから、何やら近いイメージがもたらされていると、私の知人は申しておりました。そして異口同音に「Texas Specialが高級品で Tex Mexが廉価版だよね」と決めつけておりました。まぁ確かに前者の方が後者の 倍くらいの価格差(メーカー希望価格による)があるので、そう思われるのが自然だと思います。が、果たしてそうなのでしょうか?
店主は双方ともに好んでストラトに搭載し愛用しているので、それぞれの推薦文として能書ってみます。
Texas Special:
正式には Custom Shop Texas Special Strat Pickups という長い名称なので、以降 “テキサス・スペシャル” と省略させていただきます。
1992年に Fender Custom Shop から スティービー・レイ・ヴォーン のシグネイチャー・ストラトキャスターが製品化された際に、その搭載ピックアップとして採用されました。開発の中心となったのは、伝説のリペアマンで Fender Custom Shop の初代マスタービルダーを務めたマイケル・スティーブンスと言われています。ヴィンテージギターのリペアを通してその特性を知り尽くしていた彼は、ブルース・ロックに根差したスティービーの音楽性にマッチするピックアップの開発に心血を注ぎ、テキサス・スペシャルを完成させました。
先ず、画像のピックアップがくたびれているのは、メンテ中の私物のためで、ごめんなさい。
まるでヴィンテージみたい…
テキサス・スペシャルの特徴は、ヴィンテージ・ストラトのピックアップ構造をベースに若干のパワーアップとポジション(ネック・ミドル・ブリッジ)に合せたチューニングが施されていることです。見てのとおり、外観だけで品種を当てることは困難でしょう。
ミドルはリバース(逆巻き・逆磁極)設定で、ネックまたはブリッジポジションとの接続(シリーズ・パラレル)で、ハムキャンセル効果が得られます。プロを始めとする多くのギタリストから支持される人気リプレイスメント・ピックアップで、古くはクラシック・シリーズや、ボニー・レイット等のシグネイチャーモデルにも採用例があるほどです。
店主評:
今さら私が評価するのも僭越ですが、ストラトの美味しいところが凝縮された、本当に素晴らしいピックアップのひとつだと断言できます。
1954年の登場に始まりテキサス・スペシャルの登場まで、ストラトのピックアップは全て同じものを3個搭載しただけ(例外的にブリッジポジションだけは、80年代にX-1という高出力タイプを搭載)でしたが、全てのポジションに適正化されたピックアップをマウントすることで、こんなにもバランスが改善されるものかと、正に“目からウロコ”の思いを体感させてくれた得難い存在です。ハーフトーンの音色もまた素晴らしく、スイッチをハーフポジションに動かした瞬間にノイズがホッと消えるのも、リバースワインディングならではの味わい深さです。
Tex-Mex:
正式には Fender USA Mexico Tex-Mex Stratocaster Pickups という
長い名称なので、同様に Tex-Mex と省略させていただきます。
1994年に Fender Mexico から ジミー・ヴォーン のシグネイチャー・ストラトキャスターが製品化された際に、その搭載ピックアップとして採用されました。開発の中心となったのは、何と EMG の創業者・共同経営者でもあったターナー兄弟の兄の方、ビル・ターナーで、EMG から Fender Custom Shop に移籍後の初仕事と言われています。
ビル・ターナーはハイテク・ピックアップを代表する EMG の出身者らしく、ストラト用ピックアップの伝統的な製法に対し、新しい角度でのアプローチを試みました。それが決して奇をてらった手法ではなく、伝統的なレールの上から外れない範囲で具現化したところは流石です。
ビルは先ず、ポールピースからの磁束密度は均一であるべきと考え、ポールピース長を全て統一してしまいました。これが先端が揃ったフラットポールピースなら問題ありませんが、ヴィンテージの流れを汲むスタガードポールピースで実現するとなると、そうは行きません。
ビルは惜しげもなく伝統的な構造(ファイバーボビン)から離れ、私たちが廉価版ピックアップの仕様と思い込んでいた樹脂製の成型ボビンを採用し、あっさりとポールピース長の揃ったスタガードポールピースを実現させてしまいました。
こうして磁束のバランスを取ったボビンに、テキサス・スペシャル同様の各ポジション別のセッティングを施すことで、Tex-Mex を完成させました。そのサウンドは、生粋のテキサス・ブルースに根差すジミー・ヴォーンの音楽性にもマッチした、ホットなミッドレンジが魅力的な素晴らしいサウンドを堪能させてくれます。ビルの解説によると、ピックアップ(Tex-Mex )の共振周波数をアメリカン・スタンダードより全体に下げ、通常では高音が更に強調されたリアでは、更に下げてセッティングすることによってミッドレンジに特徴を持たせているとのこと。
※ジミー・ヴォーンのシグネイチャーモデルには、ブリッジポジション
のみ Tex-Mex のホットバージョンが搭載されています。
店主評:
Tex-Mex の紹介文の方が長くなってしまいましたね。これは決して安価なモデルの肩を持つ判官びいき的な思い入れではなく、高性能かつ安価に作るという、相反する課題を見事に克服したことへの賛辞と思ってください。故成毛滋さんが仰っていました。「高くて良いのはあたりまえ。安くて良いものこそ本当に良いもの」 Tex-Mex を見ていると、正にその評価を地で行っているなぁと、思わずにはいられません。
変な結論ですが…
あくまでも店主の所感とお断りしおきますが、「テキサス何某(なにがし)」と銘打たれているピックアップに共通するテイスト(味わい)というのがありまして、オリジナルのヴィンテージ路線を行くサウンドに加えて ・太い ・ゴツい ・いなたい のどれかが当てはまるようなモデファイがなされているように感じられます。 ※フェンダーに限らず
筆頭に挙げられるのは ヴォーン兄弟 を始めとする、いわゆる “テキサス・ブルースサウンド” なのでしょうけれど、ジャンルを特定せず現在のセッティングがオリジナル方向であれば、それに野趣的な風味を加えたいときに、検討の対象に含めても良いのではないでしょうか?
ストラトキャスターのオリジナルピックアップは、音色の違いこそあれヴィンテージ ~ CBS 共通してとてもナチュラルなサウンドを有していると思います。これはそのシンプルな構造からくるもので、ギブソンのハムバッカーのように、ノイズを打ち消すために採用した特殊な構造がその独特のサウンドを生んでいるのとは対照的だと思います。
諸刃の剣とも言いますか、そのナチュラルなサウンド故にトレブルの強い、いわゆる「キンキン」した音と評されることもあります。特にリア
ピックアップはスラントさせて高音を多く拾うようにしてあるうえ、オリジナルのサーキットではリアピックアップのトーンコントロールはオミットされている(効かない)ことからも、分かるかと思います。
そのため DiMarzio社 からは、FS-1 というリアピックアップの音質改善とパワーアップを両立させた製品が、早くも 70年代にはリリースされています。音質改善というのは、言うまでもまく高音を抑え、ミッドレンジを活かしたサウンドですね。ただハムバッカーに迫るパワーを有していることについては、これはあくまでも好き嫌いの域ですが、好みが分かれたように感じます。それに対して今回取り上げた両製品は、3ポジション全てにおいてミッドレンジに特徴を持たせるチューニングを行っていることからも、極めてバランスに優れているとも言えます。
先の個別の解説でも触れましたが、このポジション別(フロント・ミドル・リア)のチューニングがなされているところと、リバースワインディングが採用されているところに、店主はたいへん魅力を感じている次第です。好き嫌いの大きく出る世界ではありますが、ご参考まで。
参考文献・資料:
・リプレイスメントピックアップのすべて:リットーミュージック刊
・Fender Frontline 日本版:山野楽器刊
・現物(検体というか私物)