リスペクト@ハンドメイドプロジェクト
ー自作エフェクター・温故知新ー
還暦を迎えた今日。これまで過ごしてきた息災の日々に感謝すると同時に、何か役立てることをと考えた時、40年以上に渡って私を楽しませまた育て続けてくれた「ハンドメイド・プロジェクト:大塚明著」というエフェクター製作書をリスペクトするコーナーに考えが至りました。
この「ハンドメイド・プロジェクト」は 3冊刊行されており、このうちVol.1~Vol.2が、ギターマガジン誌(リット-ミュージック刊)に連載された記事と、非掲載のオリジナル製作記事とで構成。Vol.3が、かなり時間(数十年後)をおいた比較的最近に、100%オリジナル製作記事の豪華版で刊行されましたが、今日では 3冊とも絶版となってしまいました。昨今の書籍全般の販売不振と共に、たいへん残念でなりません。
※拙宅の近隣では書店すら姿を消しました。
しかし幸いというか奇跡と言うか、この製作書は著者の大塚明先生が紙面をCD-R化したものを販売してくださっているので、今日でも入手・拝読することが可能です。他のエフェクター製作本の多くが絶版となり入手困難となっているなか、ぜひ入手されることをお勧めします。
電子部品の役割や工作方法にも触れられているので、経験の有無に関わらず楽しみ役立つ内容であることは、お約束できます。
お求め先:珍品堂購買部 → 大塚明先生のサイト内にあります。
いつもながら能書きが長くなる傾向にありますので、本題に入らせていただきます。この「ハンドメイド・プロジェクト」シリーズは、先ずは例外なく製作記事そのままで作られることをお勧めします。
ところが中には私のように、自分の機材や用途に合わせてカスタマイズする輩(やから)が現れたりします。何故なら、製作記事は万人向けになるべく失敗しない(させない)よう、また部品もある程度入手が容易な範疇で構成されているのが常です。筐体(ケース)も、難易度の高いパズルの様相に陥らないような配慮から、作業性優先で大き目な物が選定されていたりします。なので私の場合は、回路をいじくり回す前にケースをコンパクト化することから入る習慣になっていました。
まぁそれの繰り返しで、製作技法を鍛えられたってことでしょうか?
※自作エフェクターの経験自体は、既製品のコピーをした方が先です。
<約束事項>
・製作記事内容を損なうような、大掛かりな改変は行わない。
・入手困難な部品は極力避ける。生産中止品は代替品を紹介する。
・著作者(大塚明先生)の承諾を得る。
・製作記事そのものは書かない。→ 各自でCD-Rを購入していただく。
<お願い>
・本稿は「ハンドメイド・プロジェクト」各誌の製作記事が、ほぼ作り
こなせる技量の方を対象とします。よって詳細な説明は行いません。
先ずは製作記事どおりの製作で腕を磨き、経験を積んでください。
なるべくご返事するように努めますが、業務を優先させていただきま
すので、即答はご容赦ください。本稿はボランティアです。
・たとえ私のモデファイが付加されようとも、原案・著作権は著作者
(大塚明先生)にあります。無断での製品化はお断りします。
自作エフェクターは、製作者自らが楽しむためだけに存在します。
第一弾:ICバッファー(バッファー・デバイダー)
ハンドメイド・プロジェクト Vol.1より(以降 HMP と略します)
テーマ:デバイダー機能にループ機能を追加カスタマイズ
やること:1.スイッチを 3PDT に変更してループ機能を追加する
2.ジャック形状を分けて機能を明確・視覚化する
3.基板のラグ板化
4.ACアダプタジャックの増設
記念すべき?第一弾には、迷わずこの名作バッファーを選びました。
初出 Guitar Magazine(以降GM誌)1981年4月号でしたが、手にしてすぐに製作した思い出があります。それほどまでに待ち望んだ製作記事でしたが、それには理由があります。前述の文中にも記載がありましたが、PMP(現PMG)からバッファーが発売され、海外ミュージシャンのペダルボードで見ることはありましたが、MXRのエフェクター同様に、当時高校生の私には高価で手の出せる代物ではありませんでした。
それまでの製作記事では、FETを使って出力インピーダンスを下げるものはあって一応の効果を得てはいましたが、オペアンプの使用で本格的なラインドライブ可能な本機は、正に待望の製作記事と狂喜しました。
本機はアマチュアの枠を超えて、著名ミュージシャンの愛用するところも話題となりました。文中にもあるとおり、高中正義さんのステージでの使用が騒動?になるエピソードが最も有名ですが、私の知るところでは記事で製作した個体をモニターした一風堂の土屋昌己さんが気に入って、レコーディングに即採用したという逸話に驚いた記憶があります。
さて、最初に製作してから40数年を経過して改めて製作してみた次第ですが、改めて「良い機材だなぁ」と思わせる内容で、とても楽しんで製作することができました。主な変更点は上記のとおりで、外観が変って見えるのは、スイッチとジャックが増えたため。回路的には殆ど製作記事のまま作っていますよ。
ここからは、モデファイについての能書きです。
1.スイッチを 3PDT に変更してループ機能を追加する
製作記事の80年代は DPDT(6P)スイッチが標準で、3PDT(9P)は
販売はされていましたが、希少・高価のため一般の工作には馴染み
の薄い存在で、例えれば記事の部品どおり揃えた費用より F社製の
3PDT(9P)単価の方が上だったように記憶しています。
今日ではアジア製3PDTなら 500円前後で入手できるため、それを
採用することにしました。3PDTを使うと、使わない側の出力はグ
ラウンドに落とせること。LEDの2色点灯が選択できる等の利点が
あります。またタカチ TS-11のパネル面積では、辛うじてフット
スイッチ2個の並設が可能なため、同様の利点でループ機能(セン
ド・リターン)も搭載しました。
2.ジャック形状(外観)を分けて機能を明確・視覚化する
製作記事ではデバイダー機能のみでしたので 1-in 2-out とシンプ
ルにまとまっていましたが、ループ機能(センド/リターン)を
追加したことで、ジャックが 5個に増えてしまいました。
そこでジャックに求められる機能から、できるだけジャックの外観
を変えることで次のとおり挿し違いの防止を試みました。
・インプットはひと目でそれと分る外観と同時に、バッテリーの電源
スイッチも兼ねる。→ クリフタイプのジャックを採用。
・ループ機能はどちらが「センド」で「リターン」かを明確化する。
センド側には一般的なジャック(マル信 MJ-186 モノ・スイッチ
付)を採用。リターン側には絶縁型ジャック(マル信 MJ-185LP
モノ・スイッチなし)を採用。理由は、リターン側にグラウンド・
リフトスイッチを設けるため。
・デバイダー機能は双方ともアウトプットのため、あえて違いを出さ
ないことを特徴としました。一般的なジャック(マル信 MJ-185
モノ・スイッチなし)を採用。なお製作記事では双方に 100kΩの
抵抗が付けられていましたが、3PDTスイッチの使用で非選択側が
グラウンドに落とせるようになったため、省略しています。
3.基板のラグ板化
これは単なる私の趣味で、幼いころからラグ板での配線に慣れ親し
んだことの延長線上にあるためです。シンプルな回路であれば、オ
ペアンプがあってもラグ板化できるという実証でもあります。
もちろん製作記事どおりのプリント基板でも、腕に覚えのある方な
らばユニバーサル基板(蛇の目基板)であっても容易に製作できる
範囲の回路と部品数だと思います。
4.ACアダプタジャックの増設
バッファーアンプの役割からはバッテリー電源がベストなのですが
LF356(オペアンプ)の消費電力がやや高めなこともあって、AC
アダプタも使えるようにしました。そのためパネル背面はジャック
が 6個ひしめき合う結果となりましたが、例によって視覚的な特
徴としてやや下方にずらした位置としてあります。
極性は、私のセットに合わせて“センターマイナス”。逆接続保護用
のダイオードと、デカップリングコンデンサ 100μFと 0.1μFを追
加してあります。
5.その他
・クリフタイプのインプットジャックを採用したこともあって、ジャ
ックをグラウンドにできないことから、ラグ端子によるアースを別
に設けました。先述の電源用ダイオードやコンデンサは、このラグ
端子に接続してあります。
・ループのリターン側にあえてグラウンドリフトを設けたのは、私が
過去にアースループで苦戦させられたトラウマが尾を引いているた
めで、通常は必要ないと思います。コンパクトエフェクターでも、
BOSS LS-2 はグラウンド全てが共通ですが、問題は聞きません。
6.機能について
・ループのセンド側ジャックには、モノラル・スイッチ付を使用して
ジャックが挿されていないときは、センド側ジャックと直結するよ
うにしてあります。これはループ機能を使用しないとき、誤ってフ
ットスイッチを踏んでも音が途切れないようにするためです。
・ループはデバイダーとしても使えます。例えばチューナーを接続し
て、ループでチューナー。しないとダイレクトという具合です。
7.部品について
・製作に使用するパーツ類をまとめてみました。※ケースを除く
複数使用する LEDやスペーサー等は片側のみであったり、ACアダ
プタジャックのように 2種類(内・外ばめ)のどちらを使うかが未
決定だったり、ポット(ボリューム)も同様にシャフトの形状で 2
種類あったりします。後日に追加・変更したものもあります。
工作なので、日々考えながら進めて行く工程が楽しいですね。
・40年以上前の製作記事ですが、2023年現在でほぼ記事どおりの部
品が揃えられるのもうれしいところ。IC(オペアンプ)の LF356
については、CANタイプ(火星人形)の LF356H が稀少品になっ
てプレミア価格になってしまっていますが、DINタイプ(ゲジゲジ
形)の LF356N であれば、製作記事の時代よりむしろ安価に入手
できるでしょう。それでも入手できなければ、741タイプの汎用形
シングルオペアンプでも十分代用になると思います。
・逆にポットについては、製作記事当時では稀少品だった Cカーブ
が入手可能になっていますので、今回はそれを使用しました。
私も初めて製作した当時は、Bカーブを使用しています。
※これらのパーツ類全てを 1店舗で揃えることは、おそらく困難と思
います。電気街を廻るか、数件の通販ショップに分けてお探しくだ
さい。HMP Vol.3 の情報が比較的新しいです。
8.基板への実装はこんな感じになりました
IC(ソケット)取付については手加工が必要ですので、バッファー工作編を別に設けてご紹介しました。個人的にはICをセンタリングさせられたうえ、全端子を無駄なく活用できたので及第点あげても良かったのですが、いざ配線してみると、グラウンド用にもう1端子あった方が楽に配線できたようにも思います。回路・部品共に HMP 指定どおり。
IN PUTの 1MΩが無いのは、ジャックの方にマウントしたためです。
9.部品の管理
私の場合、パーツ類は複数のポリ袋に分けて分類し、ケースごとまとめて大容量(本件の場合は 3ℓ)のタッパーウェアに収納しています。
前述の必ず使う部品や後で選択する予定の部品も含めて、揃えたものを散逸させないように注意します。私のルールでは特殊なものを除き、配線材は他の製作にも使うため別にまとめるようにしています。
10.秘密?のノウハウ
タカチ製 TSシリーズ、YMシリーズ 等のアルミ製シャーシは、上部(銀色の部分)と下部(黒色の部分)が導通しません。
理由は表面のトップコーティングが優秀なため、ビス止めしても皮膜がネジ類を絶縁してしまうからです。私は写真のように 1か所に菊座金を入れることで皮膜を傷つけ、導通を図っています。
※タカチ製品として「導通ネジ」の名称で接触部にトゲのついたネジも
販売されていますが、私はこの方法を採っています。
私がこの「ケースの上下非導通」に気付いたのは高校生時代に遡って、ロッキンf 誌掲載の「FETパラボックス」を自作したときです。
出力を増やそうと下部ケースにジャックを増設したところ音が出ず、大いに焦ったことを、今でも記憶しています。テスターで確認してすぐに原因は分かったのですが、手持ちに菊座金の持ち合わせが無く、BOSSのエフェクター底(当初は止ネジ 4か所とも菊座金が入っていた)から一つ借用して乗り切りました(笑)。
同様にケース付属のネジは使用せず、同型のステンレス製に置換しています。理由は付属のネジがニッケルメッキだからで、経時で白濁するのが、どうも好きになれません。ギターのネジがニッケルで白濁するのは気にならないのですが、まぁ私の趣味の範囲でしょうかね?
11.更なるカスタマイズ…
HMP Vol.1 の製作記事において、ゲインのポットを 500kΩに交換すれば、増幅率を 1~51倍に変更できる旨の記載があります。
しかしこの値では、バッファーのゲインコントロールの範囲を逸脱することから、推奨はされていませんでした。しかしやや大きめのゲインであれば、上げてみる価値はありそうです。例えば 150k、250k、300kあたりのポットであれば、100k ほどポピューラーではありませんが、
探せば入手可能な範囲だと思います。ゲインブーストに拘る方は、ループ機能の代りにフットスイッチでゲインコントロールを選択できるようにしてみてはいかがでしょうか?
ループを設けた際に、本来であればゲイン 1のバッファーを追加したい(ICを4558タイプに変更すれば 1個で済む)ところですが、そうすると製作記事の範囲から大幅に逸脱しますので、取り上げませんでした。
12.更なるカスタマイズⅡ
基板を HMP Vol.2 の製作記事「FET+高性能バッファー」に置き換えると、バージョンアップすることができますね。こちらもそれほど難易度の高い回路構成ではありませんが、ラグ板での製作には向かない(大きくなりすぎる)と思います。
13.ループ機能の活用例
バッファーでゲインを上げてからループに廻せることを活かし、本来はキーボード用に設計された HMP Vol.1 の製作記事「デュアル・パラメトリックイコライザー」を、そのままセットに組み入れることが可能となります。
14.私の初代バッファー(の名残り)
40年以上前に私が製作したバッファーの筐体が出てきました。
当時唯一のエフェクター筐体として販売されていた、イシバシ製のダイキャストケースが懐かしいですね。塗装にインレタと
相当な気合が入っていたことに我が事ながら驚かされます。
比較的きれいな状態なのは、中身をエフェクターボードに移設してしまった後、保管されていたためです。同時に当時高額だった 3PDT(9P)スイッチも出てきました。予備として置いておいたものか、もったいなくて使いそびれたかは、今となっては思い出せません(苦笑)。
さぁ、次回は何を手掛けましょうか?といっても 2~3か月後になってしまうと思うのですが、私自身が楽しんでおりますので、ライフワーク的に続けられたら最高だと思っています。
<注意事項>
ドリルやはんだごてを始めとする工具を使用しますので、取り扱いには十分注意し、怪我や健康への影響が出ないよう気をつけてください。
本DIY工作について起きた事故や怪我には、Studio楽庵は責任を負いません。自己責任で楽しめる方のみ製作されるよう、お願いいたします。